椋野美智子の研究室にようこそ

椋野美智子の研究室にようこそ。この部屋では、社会保障や地域と福祉について椋野美智子がかかわったこと、考えたことをお伝えしていきます。

2017/08/22

障害のある人たちのアート活動の支援

障害のある人たちのアート活動を支援する、障害者芸術文化活動普及支援事業が厚生労働省の補助を受けて大分県内でも始まりました。


大分大学での取組み

障害者アートについては私も研究テーマの一つとして大分大学福祉科学研究センターの教授時代から取り組んできました。

2008年 イギリス、アメリカのダンサーを講師とした障害者のダンスワークショップ開催
2012年、2013年、2014年 障害者アートをテーマの一つとしたフォーラムの開催
美術作品の展示、詩作品を歌にしたコンサートを同時に実施。
福祉、医療、芸術、産業の各分野の大学教員、実践者、行政、経済界など幅広い関係者による実行委員会を組織してネットワーク化
2014年 アートミーツケア学会の大分大会 障害のある人の美術作品の展示や視聴覚に障害のある人たちと共に絵画と音楽を楽しむ企画も実施
2014年 大分市文化・芸術振興計画の策定を委員長として取りまとめ
2016年 財団法人たんぽぽの家が主催する障害者アートのデザイン化、商品化の取り組みGood Job! セミナーの大分県立美術館での開催に協力
大分県内の障害者芸術文化活動支援の調査結果を報告
http://mukuno-michiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_7.htm
2016年 九州大学と連携してソーシャルアートラボを開催
社会の課題にコミットする県内アーティストをネットワーク化 



大分県内の課題

事業所・病院によるアート活動への支援の格差

大分県内の障害者アートへの支援は、個々の事業所の取り組みが中心となっていて、事業所の規模、財政状況等により大きく異なり、格差があります。指導者として専門のアーティストを雇用したり外部から来てもらって支援に当たったりしている事業所もあれば、たまたま関心のある職員が手探りで支援を行っている事業所、さらには、まったく支援を行っていない事業所まであります。支援のための研修事業等に呼びかけても関心を示さない事業所、関心はあっても職員を参加させたり、支援を行う余裕がない事業所も多いようです。
また、大分県は全国的にみても精神病院の長期入院患者がきわめて多いのですが、長期入院精神障害者のアート活動に対する支援はほとんど行われていません。
利用している事業所・病院が支援を行っていなければ、障害者が利用できるアート活動の支援はほとんどなく、障害者アートのすそ野は広がっていません。


アートしての評価、認識の低さ

支援を行っている事業所でも積極的に作品の発表を行っている事業所は少ないです。行っている場合も鑑賞に来る方は利用者家族や福祉関係者が主で、外部に対する発信力は高くありません。展示のし方も利用者間の公平に過度に配慮し、芸術作品としての見せ方になっていない場合も多いようです。大分県が行っている障害者アートの「ときめき作品展」も同様の課題を抱えています。
基本的には、ほとんどの事業所で作品がアートしての評価がされておらず、保管に対する配慮が不十分な様子です。また、著作権についての意識も低く、外部から作品の発表を呼びかけた場合、「うちの施設では外には出さないことにしています」と、事業所が本人の意向を十分確認せずに発表の諾否を決めることもみられます。また、私が在籍していた大分大学福祉科学研究センターではポスターやチラシに積極的に障害のある人たちの作品を用い、使用料も支払っていましたが、残念ながら大分県のような公的機関も含めて作品を冊子の表紙等に用いても使用料を支払うことはないようです。



こみっとあーと

このように、県内では、障害のある人たちのアート活動の支援、作品の芸術としての評価はまだ十分でありません。しかし、全国的には、障害のある人たちのアート活動は、施設の余暇的活動を中心とした生きがいづくりやリハビリ向上のためのものから障害のある人たちの個性や才能に目も向けたものへと変化してきています。
2020年のオリンピック、2018年の国民文化祭・全国障害者芸術・文化祭の県内開催に向けて大分県内のこのような状況を変えるため、県内の障害者アーティスト団体「元気の出るアート!」の事務局が厚生労働省の補助を受け、障害者芸術文化活動普及支援事業「こみっとあーと」に取り組むことになり、私も、企画や補助申請、立ち上げに協力しました。










事業は、次の3つからなり、そのキックオフイベントとして、8月19日に「こみっとあーとセミナー」が開催されました。
1)セミナーやオープンアトリエでの実習による、支援する人材の育成
2)施設等の調査による芸術作品の発掘と評価・発信
3)障害者アートを支援する事業所等への相談支援
この中でもとくに重要なのは、人材育成です。今までも、単発のアートマネジメントセミナーやアーティストの社会福祉施設への派遣などは行われていましたが、セミナーと実習を組み合わせた、障害のある人たちのアート支援にしぼった研修プログラムは、大分県内初めてです。セミナーには、課題として挙げた著作権保護についての講義もあります。また、実習は、県内4か所の施設で開催される地域の障害のある人たちに開かれたオープンアトリエと1か所の精神病院に出張して開かれるアトリエで行われます。課題だった、これまでアート活動の支援を得られなかった人たちも、創造活動の場と仲間を得ることができます。実習生は、講師とともにアート活動を支援しながら、創造性を妨げない指導などの障害のある人との関わり、用具・材料の知識、造形活動の実践、作品の展示方法などを学んでもらいます。アトリエ実習は9月から、各施設4回行われます。




来年の全国障害者芸術・文化祭大分大会が一過性のイベントとして終わるのではなく、そのレガシーをしっかり残していくためには、大分県内に障害のある人の芸術活動を支援する人材が根付き、育っていくことが求められています。