椋野美智子の研究室にようこそ

椋野美智子の研究室にようこそ。この部屋では、社会保障や地域と福祉について椋野美智子がかかわったこと、考えたことをお伝えしていきます。

2016/01/10

ここから始まるユニバーサルデザインな鑑賞


 昨年11月6日に大分市美術館の「エコール・ド・パリ パリに咲いた異邦人の夢」展と関連行事のイブニングコンサートに併せて、大分大学福祉科学研究センター等が主催して「絵画と音楽のユニバーサルデザインな鑑賞」を実施しました。私は実行委員として企画に加わり、ディスカッションのコーディネーターをしました。その報告です。

 これは、視覚や聴覚などに障害をもつ方々とともに絵画や音楽を鑑賞して、ユニバーサルデザインな鑑賞とそれを支える美術館やホールのあり方を考えようと企画したものです。参加者は視覚に障害のある方3名、聴覚に障害のある方1名を含む約70名で、アートミーツケア学会会員などアート関係者、福祉関係者、特別支援学校の教員のほか、一般の市民の方も多数いました。



 展覧会では、2班に分かれて、視覚に障害のある方を含む少人数グループで、案内人とともに鑑賞しました。鑑賞後のディスカッションの中で、参加した視覚に障害のある方からは、「絵の説明だけでなく、入館した時点からの手引きや、部屋の広さ、演奏者、舞踊者などについての説明がほしかった」との意見がありました。また、「普段は受けられない絵の説明があってよかった」、「絵画の鑑賞といえるかどうかはわからないが、描かれている人物について感じたことを議論したのが面白かった」との意見もありました。視覚に障害のある人とない人が共に美術を鑑賞するワークショップは、東京や京都や愛知では既に継続して実施され、そこでは、絵について説明したり意見や感想を述べ合ったりすることで、見える人にとっても新しい発見があり、楽しめるものとなっているようです。
 

 コンサートは、フルートやピアノによる曲目が先に決まっていたため、打楽器のように体感することが難しく、どうしたら聴覚に障害のある方にわかってもらえるか大分大学の音楽やダンスの先生とも相談して、聴覚に障害のある方に演奏中のピアノに触れてもらうことにしました。また、学生に音楽に合わせてダンスを創作して披露してもらいました。



 聴覚に障害のある方からは、「ピアノに触っているとリズムや高低もわかったが、楽しめた、感動したとは言えない」との感想がありました。また、「音楽がないとダンスもどういうイメージを持って踊っているのかわからなかった」とのことでした。

 ダンスを創作した学生からは、「視覚や聴覚に障害のある方にどうしたらわかってもらえるかいろいろ考えて創作したが難しかった」、「もし障害のある人が鑑賞に参加していなければ別の表現をしただろう」、「参加者の感想を聞いてこの表現が正しかったとは言えないかもしれないと思うが、模索していけば何かできるのではないかと思う」との意見が述べられました。



 障害のある参加者から、「すべての人にすべてのものが伝わるように、ということは表現者に無理を強いることになるので、見えない人のために絵を描く、聴こえない人のために音楽をつくってみようという人が出てくるといいと思う」、また、「鑑賞会も、今度は障害の種別を絞って行うといいのではないか」との意見が出されました。障害の種別だけでなく、程度によっても異なります。「全く見えない人には明るさは関係ないが、見えにくい人にとっては照明がもっと明るいといいのではないか」との意見もありました。また、「障害の有無にかかわらずアートの楽しみ方は人それぞれ違う」との意見も出されました。

 4月からは障害者差別解消法も施行になります。美術館やホールが、障害のある方がもっと気軽に音楽や美術を楽しめるような配慮を行っていくための参考にしていただけると幸いです。