移動支援セミナーの開催
「―訪問型サービスDは使えるのか―移動・外出を多様なサービスで推進するセミナーin大分」が12月13日、大分市のホルトホール大分で開催されました。NPO法人全国移動サービスネットワークが主催し、私が以前いた大分大学福祉科学研究センターが共催、大分県が後援したものです。私も、このNPO法人の研究会委員として企画に協力し、コーディネーターをつとめました。セミナーには大分県内はもちろん九州各県から行政、社会福祉協議会、地域支え合いの住民団体など70名の方が参加されましたが、20名近いキャンセル待ち、立ち見でもいいから参加したいといわれる方も出る状況でした。移動支援については以前から私も関心を持ち、大分大学で講演会も開催しましたが、今回の申し込みの熱心さには正直なところ驚きました。
大分県内の状況
もちろん、移動や外出の困難は高齢化の進む地域ではどこでも抱えている課題であることは以前から各種調査で明らかでした。5月のブログ記事「富士見ヶ丘団地のおでかけ交通」でも書いたように、全国1741市区町村の約6割に、住民による移動支援団体があります。一方、大分県内では、検討した団体はいくつもありながら、タクシーや路線バスとの調整ができず、結局、現在、1団体も事業を行っていません。移動支援についての地方分権
しかし、近年、移動支援を取り巻く状況に変化がありました。それは、地方分権化の流れです。まず、道路運送法が改正され、自家用車による有償の移動支援についての事務・登録権限が、運輸支局から希望する自治体に移譲される仕組みができました。2015年4月からです。これを受けて、九州内では佐賀県と大分県、熊本県の山江村と球磨村が権限の移譲を受けました。また、介護保険法が改正され、市町村の判断により、介護予防・日常支援総合事業の中で移動支援に委託費や補助金の支出が可能となりました。これも2015年4月からです。このような制度変更が関係者の関心の高まりの背景にあることは間違いないでしょう。セミナーの内容
セミナーでは、介護保険を使って移動支援に取り組む松戸市、さつま町、国東市の事例報告と、全国の市町村の取り組み状況の調査結果報告があり、その後、①具体的なニーズ把握 ②担い手の把握、育成 ③介護保険を活用した補助の仕組 ④運輸支局や交通事業者との調整 ⑤事故などのリスク管理 をテーマに事例報告者と全国移動サービスネットワークの事務局長からアドバイスがありました。移動支援の道路運送法・介護保険法上の位置づけ
移動支援は道路運送法でも介護保険の総合事業でも、いくつもの種類の位置づけがあります。種類が多いのはそれだけ地域の実情に合った選択ができるメリットがあるわけですが、それぞれ認められる条件が異なっているので複雑です。それで、セミナーの冒頭に私からその種類を整理してお話ししました。以下はその内容です。
道路運送法上の位置づけ
道路運送法上認められている住民による移動支援活動は、①許可を得たもの ②登録されたもの ③そのどちらも不要なものの3つに大別でき、さらに、許可に2種類、登録に2種類、どちらも不要に3種類の合計7種類があります。(1)許可も登録も不要
① 無償ガソリン代、道路通行料、駐車場料金等の実費は利用者または行政に金銭を負担してもらってもかまわない。
換金できないポイント等でなら、実費を超えて負担してもらってもかまわない。
② 介護・家事援助等サービスとの一体型
介護や家事身辺援助等の有償サービスが提供されていて、そのサービスの中に車両を使った送迎も含まれている場合。
③ サロン等への送迎(自家輸送)
主たるサービスに付随して利用者からの対価を得ずに行う送迎。サロンの利用中や送迎途中で買い物等に行くこともできる。
(2)許可
① 介護タクシー事業青ナンバー車両、2種免許
利用者は、要介護・要支援認定を受けている者、障害者など単独ではタクシー等を利用することが困難な者とその付添人。
② ぶら下がり許可
訪問介護事業所が介護タクシー事業の許可を受けた場合は、その事業所のヘルパーは許可を受ければ自家用車両、1種免許で移動支援を行うことができる。
利用者は介護保険の要介護認定者。ケアプラン必要。
乗車又は降車の介助については介護保険を適用できる。
(3)登録
① 福祉有償運送NPOや社会福祉法人等の団体が営利に至らない範囲の対価(タクシー料金の半額程度まで)を得て、行う。対象は障害者や要介護・要支援認定者等。
法人等が訪問介護事業者であれば、乗車又は降車の介助について介護保険を適用できる
② 公共交通空白地有償運送
交通が不便な地域で、主に住民向けにNPOや社会福祉法人等の団体が営利に至らない範囲の対価(タクシー料金の半額程度まで)を得て、行う。
3 介護保険法上の位置づけ
介護保険で認められている移動支援活動は、①要介護者への介護給付と、今回新規に認められた総合事業があり、さらに、介護給付には3種類、総合事業には5種類の合計8種類があります。(1)要介護者への介護給付
① 訪問介護:身体介護訪問介護の中で車両を使った移動支援も行う。
② 訪問介護:通院等乗降介助
乗車又は降車の介助について介護報酬あり。
移送については、道路運送法上の許可・登録を得て対価を得る。
③ 通所介護
通所介護の中で送迎も行う。送迎加算あり。
(2)要支援者等への総合事業
① 訪問型サービスB(介護予防・生活支援サービス事業)訪問型サービスの中で車両を使った移動支援も行う。
間接経費(コーディネータ人件費、電話代等)のみ補助可。
② 訪問型サービスDの1「どこでも型」(介護予防・生活支援サービス事業)
送迎前後の付添支援。
間接経費(コーディネータ人件費、電話代等)のみ補助可。
利用者からガソリン代等の実費以上の対価を得る場合は、道路運送法上の許可または登録が必要。
③ 訪問型サービスDの2「サロン送迎型」(介護予防・生活支援サービス事業)
サロン等の活動の中から送迎のみ切り出して、別の事業者が行う。
間接経費のほか、ガソリン代、保険料、車両購入費等の補助可。
利用者から送迎に着目してガソリン代等の実費以上の対価を得る場合は、道路運送法上の許可または登録が必要。
④ 通所型サービスB (介護予防・生活支援サービス事業)
サロン等の活動の中で送迎も行う。
間接経費のほか、ガソリン代、保険料、車両購入費等の補助可。
⑤ 地域介護予防活動支援事業 (一般介護予防事業)
対象者が要支援者等に限られない。
サロン等の活動の中での送迎やサービスD「サロン送迎型」と同様の事業を行う場合、間接経費のほか、ガソリン代、保険料、車両購入費等の補助可。
サービスD「どこでも型」と同様の事業を委託実施の事例も。
報告事例
セミナーで報告された松戸市の事例は、道路運送法の介護・家事援助等サービスとの一体型と、介護保険の訪問型サービスBの組み合わせです。さつま町の事例は、道路運送法の介護タクシー事業+ぶら下がり許可と、介護保険の 訪問型サービスDの1「どこでも型」の組み合わせです。
国東市の事例では、道路運送法のサロン等への送迎(自家輸送)と介護保険の 地域介護予防活動支援事業の組み合わせが検討されています。
大切なことは、制度を当てはめて仕組みをつくるのではなく、地域に合った支援の仕組みを考え、その仕組みに制度を当てはめることです。特に介護保険で示されているものは例示に過ぎないと厚生労働省も言っていますから、例示を参考に、地域に合った制度のあてはめをそれぞれの市町村が考えることが求められています。