椋野美智子の研究室にようこそ

椋野美智子の研究室にようこそ。この部屋では、社会保障や地域と福祉について椋野美智子がかかわったこと、考えたことをお伝えしていきます。

2016/04/15

松が丘団地自治会の朝市


4月14日の木曜日、久しぶりに松が丘団地の朝市に伺いました。





 松が丘団地の朝市は2008年7月に始まりました。
発端は、2007年、私が福祉科学研究センターの教授のときに自治会の協力を得て行ったアンケート調査です。調査結果の報告を聞いて、団地には買い物に困っている住民が多いということに注目した障害者施設の職員が、知り合いのいた宗方台団地の自治会に頼んで施設利用者のつくっている農作物の販売を始めました。それを知った松が丘団地の自治会の方がその施設に働きかけて松が丘団地の朝市が始まったのです。

以来8年間、毎月第2と第4の木曜日に公園で朝市が続いています。
暑いときも寒い時も雨の日も晴れの日も続いています。初めの頃は雨の日は中止にしていたそうですが、買い物に来る住民の方がいたので、少し狭いけれど公民館を使ってやることにしたそうです。
市の公園での販売行為は許可が必要です。その手続きを3か月ごとに自治会がしています。その上、自治会の役員さんは毎回必ず出て、テントやテーブルの設営と片付け、さらに、無料で、お茶や、寒いときはぜんざいや甘酒などをふるまっています。買い物だけでなく、ここでつきあいが始まり、深まることを期待してのことです。40年たっても団地の住民は近所づきあいが少ない人が多い、というのも2007年の調査からわかったことでした。

それほど儲かるわけではありません。それでも、事業者さんが出店してくれている理由の一つは、やはりこの自治会の熱心さです。これは、2010年に出店者に対して大学で行った調査の回答にもありました。
朝市が始まった時は野菜やパン類だけでしたが、その後、住民の要望に応じて魚が加わり、さらに肉も加わりました。魚は一時、佐伯市鶴見の漁村女性グループが来ていましたが、高速料金無料化が終わって採算的に無理になったとのことでした。それで、他の物を売っていた個人の方が市場で仕入れて売るようになったそうです。市場で仕入れて売っている出店者は他にもあるようです。
長く続けているので、松が丘団地の朝市は知られるようになり、口コミで出店する事業者が出てきているとのこと。肉の販売店もその一つです。

出店者は当初は障害者施設中心でしたが、障害者施設は工賃アップのために収益の上がる仕事へシフトして朝市に出店する施設が少なくなり、その代り一般の個人や事業者が加わりました。全部で11店ですが、毎回は来ないところもあるので今日は8店でした。


自治会は、独自にアンケートをして「木曜日は都合が合わない」「月2回ではタイミングが合わない」という声に応えて、県民生協と交渉して、毎週火曜日に移動販売を3か所(中央公園、深迫公園、CATVの裏の駐車場)で50分ずつ始めました。朝市にはない、冷凍物や刺身などもあって便利だそうです。これも公園利用の許可申請を自治会名でして、必ず役員さんが立ち会うそうです。生協は宅配弁当などの販売にもつながること、松が丘団地の後に近くの地域を回って販売することなどで、何とか採算をとっているようです。
この移動販売が始まったこともあって朝市の利用者が少し減ったけれど、少なくなっても来てくれる出店者がある限りは続けると自治会長さんは言っていました。


大学がしたのはきっかけづくりのお手伝いに過ぎません。それから8年、自治会の方々のご努力で朝市はしっかり団地に根付いていました。毎回、朝市終了後に反省会を行い、アンケートも行って住民の要望を聞いています。それを朝市のあり方の改善や、さらには移動販売などの新たな事業につなげて、住みよい団地づくりに取り組んでいるのです。
反省会やアンケートなどをきっちりやるのは、サラリーマン退職者の多いこの団地の自治会の特色の一つかもしれません。また、とかく地域になじみにくいといわれるサラリーマン退職者が自治会で活躍しているのも、いわゆる地の人がいなくて皆がよそから移り住んだサラリーマン世帯ばかりの住宅団地のいい面かもしれません。そういう意味では、松が丘は住宅団地の自治会の一つのモデルともいえるでしょう。
ただ、高齢化は着実に進んでいます。「65歳以上の住民が39%で、70歳以上の住民も1000人、あと10年たったらみんな車が運転できなくなって大変なことになる」というのが前自治会長さんの心配でした。移動の支援は大分県内どこの地域も抱える大きな課題です。
大分市富士見ヶ丘団地では自治会がタクシー業者と連携して住民の移動支援を始めています。近いうちにお話を聞きに伺いたいと思っているところです。